「いもほりお」長いバージョン

私の友人のいもほりおは 
大学を卒業して
商社に就職した
しかし社会人ニ年目の秋に
突然会社を辞めた
 
彼の説明によると
自分は何をして生きているかと聞かれた時
芋掘りだと胸をはって答えるために
会社を辞めたそうだ
会社勤めをしながらでは
芋掘りをするのは難しかったようなのだ
彼は人の芋を掘るのでなく
自分の芋を掘りたかった
それも毎日毎日掘りたかった
自分の芋を掘るためには
芋を作らねばならぬ
毎日掘るには
たくさん作らねばならぬ
そうゆう訳でいもほりおは
自称芋掘り人となったのだった
 
そして最近
彼からはがきが届いた
 
拝啓
御無沙汰しております
いかがお過ごしでしょうか
私は今、田舎で芋掘りをしています
まだまだ掘れる見込みですので
休日にでも遊びに来て
一緒に芋掘りをしませんか                    
 
他の友人も誘って
早速次の週末にいもほりおを訪ねていった
土の匂いが濃くなってきたところで
日焼けしたいもほりおが笑顔で待っていた
そしておいしい芋料理でもてなしてくれた
 
次の日は芋掘り日和
空は 秋のせいか
それとも 畑にいるせいか
ずーんと 遠くに感じる
 
いもほりおの畑は とても大きい
はじめは芋掘りなんて、と格好つけていた友人も
三十分もすぎると
見ろ、こんなでかいの
なにぉ、こっちのほうが
などと本気で張り合う始末
私もただただ掘って
芋が見えて
大きいかな どんなかな
ああ こりゃちっちゃい
などと繰り返し
気が付くと汗びっしょりだった
 
夕方になって
掘った芋を段ボールいっぱいにつめて
車にのせた
手を振るいもほりおに
きっとまた来るからね
と言って車の中から手を振る
いもほりおは相変わらず素敵な笑顔で
見えなくなるまで手を振っていた
 
山道を走る車の中で
いいなぁ いもほりお
と言うと
皆も無言で頷いた
そして誰かが
なかなかねぇ
と言うと
今度は皆頷かないで
無言で景色を眺めていた
 
揺れる車の中は 
土の匂いがしていた


(c) Mari Awaya 
私家版「夜になると、ぽこぽこと」に短い別バージョンを収録
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「ため息風船」

日曜日に街へ出かけた
昨日の雨はもう残っていないのだけど
朝玄関を出た時一瞬吹いた風に
雨の匂いが混じっていたから
私は念のために傘を持って出かけた
でも街へ着くと雨の匂いはちっともしなくて
おいしそうな匂いやゴミの匂い
香水の匂いがするばかりだった
駅にも道にもお店の中にも人がたくさんいて
あんまりにもたくさんたくさんいるものだから
私はくらくらしてしまい
しまいにはふらふら歩いた
 
向こうの方で騒いでいる声がして
何処も騒いでいるような感じなので気に止めずにいたら
その騒いでいるのがだんだんと近付いてきた
みんなの声と一緒に近付いてきたのは大きな風船で
みんなはそれを飛んだりしながらぽんと触り
それでだんだんこちらへ動いてきているのだった
風船は青色をしていて
みんなが触る度に
ゆっくりと少し上がってはまた沈む
私の近くに来た時には
ちょうどふわりと上がっていて
だから私はちょっとした出来心で
別に触らなくてもよかったのに
持っていた傘で つん とつっついてやった
その瞬間
大きな音で空気が揺れて
いち と数える間に風船は消えてしまった
今まで聞こえていた
遠くの騒がしいのや近くの騒がしいのが
一瞬にしてみんな聞こえなくなった
そしたら誰かが あ と言って
そうしてすぐに はぁーあ と言った
いじわるそうな はぁーあ が
あちらこちらから聞こえてくるので
私はすっかり泣きそうで
怖くて悲しくてどうしようもなくなって
ごめんなさい と言って走って逃げた
 
帰りの電車で
先ほどの風船のことを落ち込んでいたら
隣に座った女子高生が
黄色い風船を持っているのが目に入って
私はもう一度悲しくなった
けれどもその子はぐっすり眠っていて
隣の人の肩を無断で借りているのに
貸している人はすこしも嫌な顔をせず
そのまま眠らせてあげていた
窓に写るその様子に見とれていたら
女子高生の風船が
風にふかれて私のひざにやってきた
起こしても可哀想だし
起きるまで持っていてあげようと思ったら
突然その子は目を覚まし
大急ぎで電車を降りた
あ と言う声も間に合わず
ドアは閉まって走り出した
 
どうしようかと困っていると
肩を貸していた男の人が
どうぞそれ 肩貸し代です
と言うので
私が貸したのじゃ ないですけど
と言うと
いいですよ 同じようなものだから
それも巡り合わせですかね ははははは
と笑うので
私はありがたく風船を貰い受けた
 
家に着いて
黄色い風船を飛ばして遊んでいたら
微妙に少しずつ大きくなっている気がして
もう遊ぶのはやめにした
 
けれども一週間経った次の日曜日には
家にも入らない
庭にも置けないくらいに大きくなって
どうしようかたいそう困ったけれども
割ったらまた
はぁーあ という声が聞こえてきそうなので
仕方なく家の前の道路に投げてやった
風船は自分で歩いていくように道路を進んでいって
角を曲がって見えなくなった
 
その後気が付いたことには
どうやらあの風船は
私の中に蓄積したため息を
吸い込んで持って行ったらしいと言うこと
おかげで今までため息が占めていた部分は
すっかり空いてくれて
他のものがまだまだ入るぞ どんと来い
という気分になって
その日はワクワクして眠れなかった
 
そんな気分で眠れない夜は
随分久しぶりだった

(c) Mari Awaya 
手製本「ビー玉を通った光り」より

http://mari.awanomori.net/?eid=23
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「小鳥の助言」

私が眉間にしわをよせていると
顔見知りの
歌声の素敵な小鳥がやって来て

どうしてそんなに
むずかしくしちゃうの?
本当はシンプルよ
生きたいところで
生きたいひとと
生きればいいわ
と言う

それは分かっているけど
どうしたらいいか分からないの
と私が言うと

また考えちゃうのね
さすがにんげんね
と言って
やわらかな春の歌を
歌ってくれた



© Mari Awaya 2015
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「かたまり」

肩にかたまりが、いる
特に右のが、大きい
じっとしていて、動かない

かたまりはどこから来るか
色んなところからやって来る
上司の嫌味
同僚の愚痴
家族に嫌気
友人と比較
自分に落胆
未来に不安

テケテケテケとやって来て
ぴたっとくっつき
からだの一部になる
そこが自らの家であるように
頑として動かない

たたいたり
話しかけたり
するけれど
いっこうに動いてはくれない

痛くて重くて
わたしは泣いた
一人っきりの部屋で
わんわん泣いた

するとかたまりが
ひどく熱くなってきたので
そっと右の肩に手を当てると
かたまりじゃない何かが
こう伝えてきた

ユルメナ
ユルシナ
ナガシナ

わたしはその言葉を考えた
かたまりをさすりながら
いつもと違って
慈しみをもって
さすりながら


© Mari Awaya 2015
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「はしご屋さん」

私の住んでいる家の近くに
はしご屋さんがある
はしご屋さんには
いろんな種類のはしごがある

普通のはしご
おもちゃのような小さいはしご
木で出来たオブジェのようなはしご
黄色の細いはしご
青い長いはしご
オレンジ色の曲がったはしご
いたるところにはしごが置いてあって
まるで公園のよう
でもそれらは売っているのではない

大きな段差や大きな溝
思いがけない穴に
たちふさがれて進めなくなったとき
みんなはしご屋さんを呼ぶ

大体ぞうさん公園の砂場くらいの溝です
という風に電話で言うと
それに合いそうなはしごを
トラックにつんで来てくれる
そして溝にかけてくれて
私たちは前へ進めるのだ

近ごろはしご屋のおじさんは
新しいはしごを作るのに熱心だ
それもすごく大きくて
横へ縦へ、伸び縮みする

最近あるお客さんがね
穴の大きさはよく分からない
月くらいに大きいように思うって
電話してきたんだ
ずいぶん思いつめた感じでね
もしかしたらこれはもう
はしご屋の仕事じゃないかもしれないけどさ
おじさんもなんとかしてあげたいからさ
その先に進めるきっかけは
どこにあるか分からんものだからね
と言って作業をつづけていた

段差や穴を渡るのは自分で行くしかない
けれど誰かがその助けをしてくれる
そういう人がいてくれることが心強い

おじさんにさよならを言って家へ向かう
マンホールを踏まないように
大袈裟に飛びながら帰った


© Mari Awaya 2008
「あわやまりのひとしずく」より
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詩人。物語も書いてます。
東京を中心に活動しています。詩集に「ぼくはぼっちです」、アンソロジーの詩集にも多数詩が載る。Twitter→@AwayaMari
Instagram→awa_mari39

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