「仲良しの猫」

体重が増えちゃった
と仲良しの猫に打ち明けると
 
冬だから仕方ないわよ
と猫は言った
 
猫はよくうちの庭に
ひなたぼっこに来る
茶の薄いのと白のしましまの猫
今は寒いので家にあげて
ホットミルクをあげている
 
さらに猫は
 
全然見た目では分からないけど
と一瞥して言う
 
そしてミルクをコクリコクリ飲んでから
 
暖かくなったら動けばいいじゃない
それに
一キロや三キロで
あなたの魅力が失われることなんて
ないわよ
安心しなさい

と言った


(c) Mari Awaya
私家版写真と詩の本より「不思議ないきもの」より
  • -
  • -

「怖いのとんでけ頭巾」

私の行きつけのレンタルビデオ屋は
すこし変わっている
ビデオ、DVD、CD、本、ゲーム、マンガ
貸し出しはシステムも料金も普通
 
ただ店内にはいつも
香水おばさんがいる
香水おばさんはお客から注文されると
手持ちの匂いを調合して香水を作る
だから香水おばさんのブースには
匂いのサンプルがいくつもあって
店内はいつも香水くさい
 
それから
「怖いのとんでけ頭巾」が置いてある
これは初め子ども向けに作られたもので
怖い映画を観てしまった後
怖いのがずっととれない子の
頭の中にある怖いシーンを
溶かしてしまうというもの
形は防災訓練で使う防災頭巾に似ている
それを怖いシーンを思いだしながら
十分くらいかぶっていればいいのだ
するとだんだん思い出せなくなって
溶けてしまう
誰が作ったのか定かでないが
この店の店長の知り合いに
発明をしている人がいると聞いたことがある
 
この頭巾を最近は大人も使いはじめた
大人でも映画が怖いからだと思ったが
そうでない人もいるらしい
昼間買い物帰りの主婦や
夕方学校帰りの高校生
夜遅くに帰ってきた会社員と思われる男性
いろんな人がコンビニに寄るように来ては
頭巾をかぶっていく姿を見かける
思うに日常にある怖いシーンも
頭巾は溶かしてくれるのだ
目をつむって眉間にしわを寄せていたのが
安心したように穏やかな表情に変わっていく
 
こわいの とんでけー
こわいの とんでけー
こわいの とけて とんでいけー
 
いつか私もやってみようかと思いながら
今日は笑顔のかわいい女優が出ている

青春映画を借りて帰った


(c) Mari Awaya
私家版詩集「ぽちぽち、晴れ」より
  • -
  • -

「風の強い日」

木々がめちゃくちゃダンスを踊るくらい
風の強い日
隣の隣に住む大男のシーツが
私の庭に飛んできた
 
青い小花柄のシーツ
と思ったら
シーツではなくて
大きなかっぽう着だった
 
シーツだと思ってしまうくらいに大きい
私はフローリングに広げて
私のシーツと比べてみたり
腕を通してみては
ひたすらその大きさにびっくりした
 
その後隣の隣へ行って
大男にかっぽう着を返した
少し話しをすると
このかっぽう着は
大男のお母さんが使っていたもので
こっちへ出てくるときに
お母さんからもらったのだという
大男はしきりに
ありがとうございますと
うれしそうに言った
 
家に帰る短い道すがら
大男と大男のお母さんのことを考えて
私もお母さんが恋しくなって
びゅうびゅういう風に向けて
おかぁさぁぁん
と言った
 
風は少し弱まって
またすぐにびゅうびゅういった


(c)Mari Awaya
私家版詩集「あの星から見える、うちの明かり」より
*はじめて書いた詩は、「隣の隣の大男」と言う詩でした。
  • -
  • -

「貝を焼く姉」

姉は「貝のくに」出身です
場所はどこにあるか分らないけれども
我が家で「貝のくに」出身なのは姉だけで
他は皆違うけれども
ついでに言うなら私は
「しいのくに」出身です
 
姉は「貝のくに」出身だけあって
しょっちゅう貝を焼きます
私が生まれてからずっと
そばにくっついては貝を焼いていました
にっこり笑いながら貝を焼く姉と
ちょっと嫌そうな顔の私
 
だけど姉が貝を焼くのは
楽しい時ばかりではなくて
父が病んでいる時
母が悲しんでいる時
私が苦しい時になおのこと
せっせせっせと貝を焼くのです
 
姉は家族や友人のために
貝を焼くのが好きなのです
貝を焼いて、それが
ぱかっぱかっと開くことが
姉の生き甲斐なのだと思います
 
姉は思うに
「貝のくに」出身者の中でも
優秀な方に入ると思います
それはつまり
貝を焼き過ぎということでもありますが
身近にこんなに優秀な「貝のくに」の人がいることを
最近になって私は
うれしく思えるようになりました
 
それと同時に
いままで焼いてくれた数々の貝のこと
本当にありがたく思います
 
あたたかいおせっかいをいつまでも
私たちの隣と
もうひとり増えた大切な人の隣で
どうか焼きつづけてください


(c) Mari Awaya
*10年ほど前に、愛する姉に送った詩です。
  • -
  • -

「新年大オセロ」

まだ三が日だと言うのに
街へ行くと大勢の人がいた
駅前の広場には人だかりができていて
私は何事だろうかと
ひょこひょこ覗きに行ってみた
 
人の隙間から見えるのはおかしな光景だった
そこではオセロが行なわれていた
しかも特大のオセロだ
レストランのテラスにある
丸いテーブルの大きさくらいのコマでもって
白と黒、一つのコマを二三人がかりでひっくり返す
マスは白い石灰で書かれたようだが
皆が踏んでしまって、もうはっきりとは分からなくなっている
人だかりのまん中に少し高い台があって
その上に赤い旗を持って
ゲームの進行をしているような人がいる
 
しかし少しひいて見てみると
ゲームをしているように見えて
本当はなんの決まりもなく各々
裏にしたり表にしたりしているようにも見える
罵声をとばしたり喧嘩腰になっている人もいるが
テキパキと、まるでそれは仕事であるかのように
動いている人もいる
 
これは表裏がそれぞれ白と黒の駒を使って
マスの中でひっくり返したりしているから
てっきりオセロゲームだと思ったが
もしかすると別の何かなのかもしれない
 
私は近くにいた背の高い男の人に
これはどう言うわけですか
と訪ねた
すると男の人は、背が高い分背伸びなどせずに
ゆうゆうとオセロの方を見ていたのを
ちらっと私を見下ろして
どうにもこうにも
皆白黒はっきりつけたいんだよ
今年は新年からさ
と答えた
 
私はふうん、とうなずき
また人の隙間からオセロを見ていると
でもね、結局はさ
こうやって見ている方が楽だからさ
とその男の人が言って、最後ににっと笑った
その人は吸っていた煙草を地面でぐりっと消してから
またにっと笑いながらオセロを一瞥して
どこかへ行ってしまった
 
私はもうしばらくそこでオセロを見ていた
人だかりは入れ代わり立ち代わりして
当分そこにあった


(c) Mari Awaya 
手製本「帰り道」より

http://mari.awanomori.net/?search=%BF%B7%C7%AF%C2%E7%A5%AA%A5%BB%A5%ED
  • -
  • -

| 1/5PAGES | >>

詩人。物語も書いてます。
東京を中心に活動しています。詩集に「ぼくはぼっちです」、アンソロジーの詩集にも多数詩が載る。Twitter→@AwayaMari
Instagram→awa_mari39

カテゴリー

カレンダー

  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< August 2017 >>

リンク

今見ている記事

過去の記事

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM