「ぺしゃんこおばけ」

大地震がくるくると
巷で大騒ぎしているので
水を溜めておく用の
ポリタンクを買いに来た
 
車を駐車場に止めていると
何か変な感じがする
下に何か気配を感じ
駐車場の地面を見ると
ぺしゃんこの白いオバケが
そこらじゅうにいるのだった
オバケはいっぱいいた
そしてみんなぺしゃんこだった
 
大地震の前に
オバケの世界では
もっと大変なことが
起こったのかもしれない


(c)Mari Awaya
 私家版「不思議ないきもの」より
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「眠っている間に」

ええ、もうわたくしの家は準備万端ですのよ
毎年不備のない冬眠ができるように
オオケイスーパーでなんでも買いますの
あそこよろしくってよ
 
ええ、そう、ニュースで言っていましたわね
何年か後には冬眠手当てがなくなるんですってね
当然冬眠もなくなりますわよね
でも、あれでしょう
わたくしたちが冬眠している間の外の世界は
それは美しいって言うじゃありません
わたくしたちは防寒布に家ごとくるまれてしまうから
冬眠中は外なんて見られないでございましょう
ええ、ええ、まあ眠っているから同じなんですけどね
 
きらきら光って本当にきれいだそうですよ
ほら、わたくしの親戚に
軍隊に入っているお方がいらしゃって
その方が言ってましたの
でも大変ですわよねえ
お偉い方や軍隊の方は冬眠もなさらずに働いて
 
冬眠がなくなったら
わたくしたちも見られるんですわね
どんなにきれいなんでしょう
 
春が来たらまた家にいらして下さいね
ええ、ええそれはもう、お花見でもよろしいですわね
 
ですけど春が来るたびに何かと変わっていることがあって
少し慣れるのに困りませんこと
なにやら冬眠の間にできた決まりごとが
毎年毎年増えていくじゃありませんか
ええ、でもそんなに気にするほどのものでもないでしょうけどね
わたくしって少し心配性なところがあっていけないですわね
 
ええ、ええ、あらごめんなさい
引き止めてしまって
ではよい冬眠をお迎えくださいね
おやすみなさい


(c) Mari Awaya 2006
私家版詩集「眠って眠って、春」より
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「ぼんやりゾーン」

テルオくんが連絡もなしに
三十分待ち合わせに遅れてきた

でもトコトコと歩いてやってきて

やあごめん
うっかり「ぼんやりゾーン」に座っちゃって
と言う

「ぼんやりゾーン」って最近できた電車の?
あれどうなるの、座ると

テルオくんはポリッと頭をかいて

僕さ、ぼんやりするのなんて
どこでもできるからって
ちょっとバカにしてたんだよね
でも気がついたらそこに座っちゃってて
で我に返ったら終点だったの
バカにできないね
「ぼんやりゾーン」

へえ
なにが違うの、他の席と

いやあ、よくわかんないなあ
ほら、ぼんやりしてたから
今度座ってみなよ
わかるから

ふうん
じゃ、行こうか
とわたしが言って
駅の北口にあるカフェに向かう
歩きながら

しかし

とテルオくんは締めくくった

人生にはぼんやりするときが
たまには
ひつようだね

(c) Mari Awaya 2009
手製本「テルオくんとわたし」より
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「平日のオムライス屋」

本物か偽物か
はっきりさせたい
とわたしが言うとテルオくんは
へぇ、そうなんだ
とオムライスを口に入れてから言った

本物だと、どうなるわけ?
と言うので
本物だったら
胸張ってがんばって
生きていかれる
と答える

じゃ、偽物だったら?
そしたら
それでもがんばって
生きていかなきゃ

じゃあ別にはっきりさせなくても
いいんじゃない
それに
誰が決めるの
本物と偽物

どっかにいる誰か
本物がわかる人

それが誰か知ってるの?

知らないよ

じゃあ
はっきりさせようがないじゃない
ははは
とテルオくんは笑う

そうなんだけど

どっちでもさ
本物でも偽物でも
自分が思ったように
がんばって生きてれば
いいんじゃないの
仮にもしも
そういう判別があるとしても
もっと後から
ついてくるものかもしれないよ

わたしはオムライスの中にあるチーズを
フォークでのばしながら
そうなんだけどさ
とため息をつく

大丈夫
違う角度からみたら
みんな本物なんだから
そう信じてないと
生きていかれないんだから
ははは
とテルオくんは笑った

そして
でも僕はもし偽物でも
胸張って生きていくよ
と言って
もりもりサラダを食べた

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」「テルオくんとわたし」より

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「梅雨の居酒屋にて」

夏の前に梅雨があることを忘れていた
わたしがそう言うと テルオくんは
一点をしばらく見つめてからこう言った

そうそう
季節と言えば
ここでウーロン茶をゴクリ
世界最後の季節は何だと思う?
わたしはすぐに
春でしょうね と言った
するとテルオくんは
そうかあ 春かぁ
と言ってまたゴクリ

今度はわたしがテルオくんに
テルオくんは何だと思うの
と聞くと
僕はね 夏だと思うんだ
と答えた

でもさ ゴクリ と続ける
世界が全部春な時って ないよね
まあ そうだね
今は ここは梅雨だけど
何処かの国はずっと夏だし
別の何処かの国は今は秋だし

じゃあさ ゴクリ
今世界は成長と退化だったら
どっちだと思う?
うん むつかしい
僕はね きっと退化だと思う
そうかなぁ
これも ある意味ではね

別にどうでもいいんだけど
ゴクリゴクリ
僕も絶対死ぬし
世界もいつか終わってしまうし

でもさ とりあえず
今度の夏が世界最後の季節に
ならないといいなって 思うんだ

そう言ってテルオくんは
ウーロン茶を飲み干して
すいません 温かい緑茶ください
と手をあげた


(c) Mari Awaya 2003
「ビー玉を通った光り」「テルオくんとわたし」より
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詩人。物語も書いてます。
東京を中心に活動しています。詩集に「ぼくはぼっちです」、アンソロジーの詩集にも多数詩が載る。Twitter→@AwayaMari
Instagram→awa_mari39

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